林 基弘の
「至高の定位放射線治療を目指して」
Trigeminal
neuralgia
三叉神経痛
準備&コンセプト
本態性三叉神経痛に対する定位放射線手術(SRS)は、4mm アイソセンター(球状照射野)のみ1ショットを用いて全例治療に当たっている。まさに、「ワンショットの美学」という名に相応しい、こだわりと精緻の極みのピンポイント照射と言える。

私たちは通常、骨条件CT axial 1.0mm slices、MRI条件2 sequences(TOF axial 1.0 mm slices/ plain CISS/FIESTA axial 0.5-1.0 mm slices)を基本として全症例に対してルーチンで撮像。その後、治療計画用コンピュータ内に全画像をインストールしCT/MRIの合成画像作成を行い、主にcoronal像にて具体的に三叉神経のdelineation(囲い込み)を行う。MRIとCTとの間で、positional distortion(位置的ゆがみ)の有無を確認し、もしずれが生じている場合はXYZどの軸でどの程度ずれているのか(経験的にはZ軸方向でのずれが頻度的に多い)正確に計測し、最終的な位置補正作業に活かしていく必要がある。
治療計画用コンピュータによる
標準的な三叉神経痛治療計画
本治療開始当初(1995年頃)は、主にピッツバーグ大学にて、照射ターゲットはRoot Entry Zone(REZ)にすべきという指針(Pittsburgh method)があった。理由として、責任血管が同部を圧迫して発症するケースが多いと目されていたこと。そして、radiosensitivityの観点でschwann cellよりもoligodendrocyteの方が高いという放射線生物学的な特性があったからと言われている。

一方で、脳幹に照射ターゲットが極めて近いので、合併症として稀ならず脳幹放射線障害を起こしてしまうことが報告されていた。しかし、その後(1997年頃)マルセイユ大学より、照射ターゲットはREZではなく、Retro Gasselian Region(RGR/三叉神 経節後部隣接箇所)の方が最適であるとの治療指針が報告された(Marseille method)。

理由として、まず照射ターゲットが脳幹より十分に距離があることから、脳幹放射線障害の可能性は無視できること。そして本治療の根幹が、確実に三叉神経線維そのものに高線量照射できることこそが重要であるとのこと、同部はちょうど錐体骨trigeminal incisula(三叉神経切痕)上に位置することから、positional distortionの無い骨条件CTのみで、直接に照射ターゲット位置決めが可能となっているからである。

さらに、その後の微小解剖学の発展により、三叉神経におけるsensory fiber(知覚枝)は、ensory root(SR)の他にinferior motor root(IMR)の12-20%に存在していることが明らかとなり、脳幹部においてIMRはSRの0.9mm上方より起始し、SRの6mm前方でIMRが融合すると言われ、REZ よりもより前方に位置するRER targetingでは確実に捉えられるというメリットも本法を推奨する一つの理由といまはなっている。
Marseille methodによる照射法と
三叉神経の微小解剖
(とくにSRとIMRの関係)

実際

&ピットホール
ワンショットの美学/パターン別・代表
症例に対する治療戦略
本治療は、まずフレーム・アプリケーションから勝負が始まると言っても過言ではない。
まずフレームを上図のように側面において、三叉神経(Ponsの中央より、trigeminal incisulaに向かって8-10度の角度で上行している)に平行となるよう装着することがポイントである。このことにより、CTとのfusion imageにてMRI上の三叉神経は長きに亘り一本として描出される。そして、各画像のpositional distortionを減ずるべく、照射ターゲットがtrigeminal incisulaそのものをフレーム中央になるべく位置させるよう工夫が必要と考えている。
ガンマナイフ・フレーム・アプリケーション
三叉神経痛典型症例
(ただし画像ゆがみ有り)
MRIにて生じたpositional distortion
を補正して計画
本症例はMRIにてZ軸方向に0.6mmのpositional distortionを生じた症例。骨条件CTとCISS/FIESTA MRI画像をfusionしたsaggital像にて確認と計測が容易である。基本的にはMRIにてdelineation(囲い込み)した虚像である三叉神経(赤)を、0.6mm下方に移動させた実際の三叉神経(青)を描出後、これに対して照射ターゲットを0.1mm単位で決定している。その際、骨条件CT sagittal viewにて、4mm アイソセンターのリング内における(時計に例えた時の)6時-9時相当部に錐体骨の一端が含まれるよう調整し、骨条件CT axial viewにてtrigeminal incisula上isocenter circleの前半部分が骨を覆い、後半部分は脳槽内に位置するようにしている。このことにより、Gasselien ganglia(三叉神経節)には照射を当てず、神経線維のみに当てることを意識している。
三叉神経非典型症例
左図: Narrow cistern type


右図: Magadolicho basilar type
上図・左のごとく、narrow cistern(脳槽が狭いタイプ)の症例の場合は、低線量域(20%領域)が脳幹に掛かってしまい脳幹放射線傷害を惹起してしまう可能性あり。よって、ガンマナイフでは球状isocenterを変形させることが可能なため、低線量域を脳幹に掛けさせないように工夫が可能となっている(ZAP-Xでは不可能である)。また、上図・右のごとく、magadolicho basilar(脳底動脈が蛇行しているタイプ)の症例の場合、拡張した脳底動脈が三叉神経を上方外側に強く圧迫するため、これまでの通常の照射ターゲット方法では無効照射となってしまう。このような症例の場合は、trigeminal incisulaよりも上方に位置するテント縁(高齢者の場合、CTにて石灰化が目印となっている)が4mm アイソセンターのリング内における9時-12時相当部に位置するよう気を付けて照射ターゲットを定める必要がある。
MRI施行不可の三叉神経痛症例
Magadolicho basilar type
頭蓋内に非磁性体クリップ等の理由でMRI施行不可の症例に対しては、造影CT axial 1.0mm slicesを追加している。その理由としては、主にsaggital viewにてテントおよび海綿静脈洞外側前方が造影されることで、Meckel’s cave(メッケル腔)が陰性兆候としてtear drop shapeにlow density areaとして描出でき、とくに三叉神経trigeminal incisula直上位置が確認しやすくなるからである。もちろん、骨条件CTを併用しながら、最終的にretro Gasselian targetingを行い治療を遂行している。これぞ、「見えないけれど、見えてくる」とかつての上司・平 孝臣先生から伝授された機能外科の神髄が試される治療計画となっている。全例でMRI無しで治療計画立てられるようになれば、それがまさに至高の体放射線治療計画に繋がる道と考えている。
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