Priority targetはドレーナー(導出静脈)に移行するナイダスとしている
照射ターゲットは真のナイダスであり、ドレーナー及び周囲に存在している拡張正常血管(Moja Moja vessels)は可能な限り照射野には入れない
辺縁線量は最低22Gyとし、かつ照射体積は4.0cc以下とする
辺縁線量域のisodoseは基本50%を用いるが、もし照射体積が4.0cc以上となってしまった場合、脳腫瘍治療と異なり55-60% isodoseを用い相似形に照射野を狭め4.0cc以下となったところで当該治療線量域isodose lineを確定する
脳腫瘍治療とは異なり、照射野内の線量勾配均一性は意識しない。むしろ、ドレーナーの一部が内部に存在する場合は、同部へ高線量域(80% isodose area)が当たらないよう工夫する
照射体積4.0ccにて、残存ナイダスが明らかに存在する場合、3年後を目途に同部の追加治療を考慮する
とくにグレード3以上のAVM治療に対して、ナイダスのpriority target箇所は世界各施設において戦術が異なる(主に4法:フィーダー側、コンパートメント毎、ドレーナー側、そしてno policy)。私たちは、病理組織学的に有意な箇所、つまりmain shunting箇所としてのドレーナー側ナイダスをpriority targetとしている。同部は外科摘出の観点では禁忌とされる箇所であり、20年前は多くの脳神経外科医より罵声を浴びていた。しかし、高線量一括照射による血管内被細胞の病理学的変化は非常に遅く、一般的には3年かけて閉塞へと至る。
そこが外科摘出と異なり、急に脳内血流変化は惹起されないのが特徴であり、それを証拠にこの20年間における照射後出血率は1%台であり、自然出血率と比較しても有意に低値であることから、禁忌というレッテルは無くなった。むしろ、SRSはAVMを消失させる治療ではなく、脆弱なナイダスを内側からまるで耐震補強して出血しづらくさせる治療と私たちは捉えている。よって、例え画像上消失しなかったとしても、十分な照射がなされた箇所であれば出血リスクは極めてゼロに近いものと考えている。
治療効果の点において、マルセイユ大学レジス教授(脳神経外科)によれば、AVMの状況状態(例えばhigh flowなど)に問わず、22GyがAVM完全消失に必要な辺縁線量であると提唱されている。さらに、安全性の点において、ピッツバーグ大学フリキンジャー教授(医学物理)らによれば、dose-volume effect(線量体積効果)において、辺縁線量22Gyにおける周囲正常脳被爆による副作用(脳浮腫・放射線壊死)回避の観点から、照射体積は4.0cc以下とすべきと算出されている(体積1.0cc以下の場合は24Gy)。それを証拠に帰国後20年の間で放射線障害を起こした患者はゼロである(一方で、全体の25%に治療後半年前後で浮腫性変化をMRI上認めている。これは放射線障害ではなく、ナイダス早期閉塞に伴う贅沢還流と考えており、ほとんどの症例で改善完治している)。
上述のごとく、本治療はナイダス内の血管壁の厚みを増し、さらに内腔が狭小化することで血流が減ずることが一番の目的となっている。血流低下により、術後経過の中でMoja Moja vessels(周囲拡張正常血管)は自然消失していくので照射の必要はない。ドレーナーへの過照射により、遅発性贅沢還流を来す可能性が稀ならずあり、その際は程度は弱くても出血するリスクが上がるので注意を要する。また、小児例の場合、成人例と異なり、SRSに対するナイダスの感受性が強く、私たちの治療法(ドレーナー側ナイダス/4.0cc&22Gyルール)においては段階的照射を予定していても完治してしまうケースが少なくない。その理由として、未照射箇所内血流が経時的に減ぜられ、同部に血栓形成を起こしてしまうことが推測されている。だからこそ、人生のある小児例では、悪性脳腫瘍の晩発性発症(0.1%程度)を回避するためにも、正常脳被爆を最大限避け得る必要があると私たちは考えている。